前回、簡単な熱交換器モデルを説明をしましたので、少し具体的な適用事例をご紹介致します。
解析モデルはトップ画像に示していますが、中央左側の"cooler"は自動車のラジエータをイメージしています。通常、エンジンの冷却水はこのラジエータで冷やされる事とエンジン部から熱を回収する循環をしていますが、常にラジエータを通過しているのではなくエンジン始動時や外気温が低い場合にはラジエータを迂回することで逆に温まりやすいようにする事もあります。
こちらのモデルでは、冷却水の温度によりルートを変更するサーモスタットを入れた冷却サーキットを表現しています。
左からは外気が当たり、右側にある3つのengine*という名前で表された仮想的なエンジン回転挙動("engineLoad"の負荷率と"engineRotSpeed"の回転速度から"engineHeat"発熱量を計算)による熱量が"heating"に(パラメータ定義により)伝わります。この右側のサーキットは"cooler"を通って"thermostaticValve1"のAへ入るルートと、バイパスしてBへ入るルートに分岐しています。冷却水はSimulationXに予め用意されているライブラリからグリコール水溶液としており、エンジンの回転を基にした"pump"により循環するような機構になっています。
またラジエータモデルも前回の熱交換器同様に入力した寸法から3Dイメージを作成して確認が可能です。今回はラジエータですので、フィンが付いたチューブによるエレメントを選択しています。エレメントの概要と入力した寸法から作成した3Dイメージは下のようになります。
さて、計算した結果ですが、下の図で左下が冷却水を送るポンプの回転速度(=エンジンの回転数に比例)、右上はエンジン部前後の冷却水温度(赤及び青)と外気のラジエータを通過後温度、右下はポンプにより送り出された冷却水がラジエータを通過した量(青)とバイパスした量(赤)を表しています。こちらのモデルではサーモスタットの温度は90℃に設定しましたので、これを超えないようにラジエータを通過して循環する流量を多くしている傾向は左上のエンジンの負荷(赤線)に一致した傾向となっています。
この様にモデル化することで複数の要素(エンジンからの発熱量、ラジエータ冷却性能、冷却水流路など)が絡み合う場合でも一つのモデル内で考慮すれば、それぞれの影響度を確認しながら最適なバランスの性能値を割り当ててあげることが可能です。
以上、簡単な熱交換器モデルの応用事例紹介でした。
2004年、日本イーエスアイ(株)入社。自動車をはじめ各種産業分野のCAE受託解析業務及びVPSの技術サポートに従事。2016年からSimulationX及びVPSとの連成解析関連の受託解析業務、サポート、プリセールスエンジニアとして従事。