CEM One 導入事例 マツダ株式会社 #2

Electromagnetics
Ground Transportation

自動車レーダー・キーレスエントリ等を研究開発する際の電磁波シミュレーションにPAM-CEMを活用されているマツダ(株)様の事例をご紹介します。

電磁波シミュレーション
使用ソフト:PAM-CEM


マツダ(株) 車両開発本部 電子開発部 電子実研グループ 浜田康氏、鶴長真里絵氏に、PAM-CEMモーメント版を導入した経緯と、その効果について詳しく聞きました。
※ この事例は、2010年に、同じく浜田様、鶴長様に取材して作った導入事例の「第二部」です。第一部は、車載機器の電磁波制御について「そもそも論」を詳しく語ったもので、いま読んでも役に立つ内容です。併せてご覧ください。 


マツダ 電子実研グループについて

マツダ 電子実研グループは、「キーレスエントリ」、「側面衝突防止装置(自動車レーダー)」、「マツダコネクト」など、「電磁波を扱う車載機器」の研究開発を行う部門です。グループ名の「実研」とは「実験」と「研究」の略です。

 

ますます進む「クルマの情報端末化」

-このたび2010年6月の取材に続き5年ぶりにお話を伺うことになりました。最初の質問ですが、当時と今では、電磁波によるクルマの制御で「大きく変化したこと」は何になるでしょうか。

まず、今回も事例インタビューへの回答ということで、技術的厳密さよりもわかりやすさを優先して話すことをご了承ください。また、当部門の専門外のことに関しては「概論」「私見」としての回答になることも併せてご了承ください。

電磁波によるクルマの制御について、4年前には、「側面衝突防止装置」「キーレスエントリー」などが中心的な話題でした。「従来、クルマは機械制御する乗り物だったが、2010年の今では電磁波制御する部分が相当に増えている」といった趣旨のお話しをしました。

それから5年経った2015年現在、クルマの電子制御化の傾向はさらに強まっています。最近は「つながるクルマ」という言葉も登場しました。クルマは今後ますます「走る情報端末」としての側面を強めていくでしょう。

2015年3月現在「電磁波によるクルマの制御」のトピックとしては、具体的に次の4点が挙げられます。

  1. 「重大事故発生時の自動通報システム(ヨーロッパ、ロシア向け)」

  2. 「盗難車両自動発見システム(ブラジル向け)」

  3. 「クルマと外界の相互通信(V2X)」

  4. 「スマートフォンとのBlueTooth通信(つながるクルマ)」

 

重大事故発生時の自動通報システム

 

-では順番に質問いたします。トピック1 「重大事故発生時の自動通報システム(ヨーロッパ、ロシア向け)」とは具体的には。

「重大事故発生時の自動通報システム」とは、クルマが衝突事故を起こしたとき、仮に運転手が意識を失っていた場合でも、クルマの方が自動的に緊急電話番号(欧州では112)に通報を行うという仕組みです。通報される情報の内容は「衝突車両の位置情報」、「エアバッグ作動状況」、「車両の進行方向」、「事故発生時間」、「車両の種別」、「シートベルト使用の有無」などです。

このシステムは、欧州ではe-Call、ロシアではEra-Glonassと呼ばれています(以下 名称は"e-Call"にまとめます)

欧州では、e-Callの車載が2015年10月から義務化されます。もちろん欧州で販売するマツダ車もこれに対応しなければいけません。

e-Callでは携帯電話の通信インフラを使います。緊急通報はクルマの周辺の携帯電話基地局に向けて発信します。発信周波数も携帯電話のそれと同じです。

 

盗難車両自動発見システム

 

-トピック2.「盗難車両自動発見システム(ブラジル向け)」とは。

「盗難車両自動発見システム(VTS: Vehicle Tracking System)」とはクルマが盗まれた場合に、GPS通信により、盗難車の位置を特定するシステムです。遠隔操作により盗難車を走行できなくすることも可能です。現在、自動車の盗難が多いブラジルで、同システムの義務化が本格的に検討されています。

このシステムでは、受発信装置は、クルマを盗んだ犯人から取り外されることがないよう、「工具を使わず取り外すことが不可能な、奥まった場所」に搭載します。

 

 

クルマと外界の相互通信(V2X)

 

-トピック3.「クルマと外界の相互通信(V2X)」とは。

V2Xとは、Vehicle to X の略称、直訳すると「クルマからXへ」となります。クルマ(Vehicle)と外界のモノ(X)が、相互に情報通信するという意味合いです。

この「X」に該当するのは、クルマ(Vehicle)、歩行者(pedestrian)、道路脇の装置(infrastructure)、電力網(grid)など様々です。それぞれ頭文字を取ってV2V、V2P、V2I、V2Gとも呼ばれます。

V2V(クルマ対クルマ)の例としては「相互衝突防止システム」が挙げられます。従来の「側面衝突防止装置」と似ていますが、原理は全く違います。

側面衝突防止装置は、自車から他車にレーダーを照射し、その反射を通じて接近を察知するという仕組みであり、「情報通信」は行っていません。

一方、「相互衝突防止システム」では、複数のクルマどうしでGPS情報を交換し(=通信し)、互いが互いの位置を認識した上で、もし異常なスピードで接近してくるクルマがあれば、警報など何らかの措置を出すという仕組みです。

このシステムが実現すれば、交差点での出会い頭の事故を大幅に減少させることが可能になります。検知距離の目安としては、自車の周辺250メートルとされています。

側面衝突防止装置は、原理的に1対1に限定されますが、V2Vの場合は、50台、100台が相互に通信することが可能です。つまり自車のモニターに、周囲を行き交うクルマ50台、100台の位置情報を、空から見下ろすような形で一気に表示することも可能です。

V2Xは、まだ構想段階であり、今後どのような形で発展していくのかは不明です。しかし一つ明確なことは、クルマと外界の通信は、必ず無線(=電磁波)で実現されるということです。

その意味で、クルマの電磁波による制御を研究する、私たち電子実研グループの役割は、今後ますます重要になるものと認識しております。

 

スマートフォンとクルマのBlueTooth通信

 

-トピック4、「スマートフォンとのBlueTooth通信」とは具体的には。

最近、弊社では『マツダ コネクト(MAZDA CONNECT)』という装置(システム)を、アクセラなどに搭載しています。『マツダ コネクト』を使えば、お客様のスマートフォンとBlueTooth接続する形で、カーナビ、ハンズフリー通話、Facebook、Twitter、インターネットラジオなど各種情報サービスを自由に利用できます。

私たち電子実研グループの役割は、『マツダ コネクト』の通信インフラ部分、すなわちクルマ・スマホ間のBlueTooth通信がスムーズに動作するよう研究開発を重ねることです。

 

現在の課題、困難

-ここまでお話しいただいた「緊急警報装置」「盗難防止装置」「V2X」「車内でのスマホ接続」を実現するにあたっての「電磁波解析上の課題、困難」について教えてください。

大きくは、次の3点が研究開発上の困難となります。

  1. 「緊急警報装置では携帯電話用の高周波数を扱う」
    → 解析での許容誤差が小さくなる

  2. 「『マツダ コネクト』では、スマートフォンはインパネの中央(一等地)に置かれる」
    → 周囲に電磁波の妨害要因が多い

  3. 「今後も電磁波を扱う車載機器は増える一方」
    → しかし解析の時間と要員は限られている → 効率化が必要

 

困難1.「高周波数を使う → 受発信装置の小型化 → 要求精度の増大
 

-困難1.「携帯電話の周波数を使うので、許容誤差が小さくなる」とは具体的には。

根本のところからご説明します。

電磁波の受発信装置を設計する場合、その装置で扱う電磁波の周波数が高ければ高いほど、アンテナ素子など装置を構成する部品のサイズに高い精度が求められます。言い替えると、サイズの許容誤差が小さくなります。

波の基本公式により、電磁波の波長は「周波数の逆数」となります。例えば100MHzの電磁波なら波長は約3メートル。500MHzなら約1.5メートル、1000MHzなら30センチ。つまり周波数が高くなるほど波長は短くなります。

大きくは、扱う電磁波の周波数が高くなればなるほど、受発信装置は小型化していきます。またアンテナ素子など各部品は、それが扱う波長に適切に共振するサイズに調整する必要があります。このとき許されるサイズ誤差は「波長の0.1%」が目安となります。

先ほど、「緊急警報装置では携帯電話の通信インフラを使う」「『マツダ コネクト』でのクルマ・スマホ間の接続にはBlueToothを使う」と述べました。これら装置および、その他の車載機器での、扱う電磁波の周波数、波長、許容サイズ誤差を一覧化すると次のようになります。
 

項目
通信規格・手段
周波数
波長(概算)
解析のときに許されるサイズ誤差
 
衝突時の緊急警報装置
携帯電話1 0.9 GHz 300 mm 0.3 mm
携帯電話2 1.9 GHz 150 mm 0.15 mm
『マツダ コネクト』スマホと
車載機器の通信

Blue Tooth

2.4 GHz

125 mm

0.125 mm

 
盗難防止システム
GPS(L1帯) 1.575 GHz 190 mm 0.19 mm
GPS(L2帯) 1.227 GHz 244 mm 0.244 mm
キーレスエントリ
FSK 0.3 GHz 1000 mm 1 mm


表を見て分かるとおり、たとえばキーレスエントリの1センチ と『マツダ コネクト』の0.125ミリでは許容誤差に8倍の開きがあります。

このように携帯電話やBlueToothなど高周波数の電磁波をつかう装置では、その分、電磁波の波長が短くなり、受発信装置は小型化し、その分サイズの許容誤差も小さくなります。

ということはこれを解析するモデルのメッシュサイズを小さくしなければならず、解析規模が大きくなります。 電磁波シミュレーションシステムもまた、「大規模モデルを、精密、確実、高速に解析できること」が必須です。

 

困難2.「スマートフォンはインパネ中央に置く → そこは電磁波環境が劣悪な場所」

-困難2.「スマートフォンはインパネの中央に置かれるので、周囲に電磁波の妨害要因が多い」とは。

これも根本から説明いたします。

まず電磁波には「金属に弱い」という特性があります。イメージ的にいえば、周囲に金属が満ちあふれていると、電磁波は真っ直ぐ元気に飛ぶことができず、ヘナヘナ曲がってしまうわけです。

そして車載電子装置は互いに、電磁適合性(EMC:Electronic Magnetic Comatibitlity)を保持する必要があるという前提もあります。

 

参考情報:電磁適合性 とは

電磁適合性(EMC:ElectroMagnetic Compatibility)とは、電磁波を使用する機器がクルマの中で適正に動作していることを表現するための概念です。

電磁適合性は、1):他機器との電磁的不干渉性、2):他機器に対する電磁的耐性、3):自機器内での電磁的不干渉性という三つの要素概念から構成されます。

まず「他機器との電磁的不干渉性」とは、「自身が発する電磁波が他の機器の動作を阻害しない(『人に迷惑をかけない』)」ことです。

次の「他機器に対する電磁的耐性」とは、「他機器から発せられる電磁波により自身の動作が阻害されない(『迷惑なヤツがいても、ガマンして自分のやるべきことをやる』)」ことです。

最後の「自機器内での電磁的不干渉性」とは、「自機器を構成する部品同士が電磁的に悪影響を及ぼし合わさない(『身内同士でケンカしない』)」ことを指します。

 

「電磁波は金属に弱い」「車内ではEMCを確立しなければならない」という、二つの前提を考慮した場合、電磁波の受発信装置にとっての良好な環境(場所)とは、「周囲に電磁波のジャマをする金属が少ない場所」「電磁波の干渉要因となる他の電子機器がない場所」ということになります。

この観点で見れば、「衝突時の緊急警報装置」は、割合に「良好な環境(良い場所)」に置かれているといえます。

まずこの緊急警報装置は、衝突時に必ず動作しなければならないので、何があっても壊れることのない頑丈な奥まった場所に据え付けられていますが、そういう場所の周辺には、電磁波の干渉要因となる他の電子装置が置かれることはありません。

そもそも「運転手が意識を失うほどの激しい衝突」が起きた場合、クルマは大破し車載電子機器はすべて停止すると考えるのが自然です。そのとき、車内の電磁波環境は「静寂」となるので、緊急警報装置は他の装置との相互干渉を気にすることなく悠々と緊急警報を送信することができます(※)。

これに比べ、『マツダ コネクト』で使う、スマートフォンが設置される運転席インパネ周辺の環境はどうかというと、周辺にはオーディオを始めとする金属機器や他の電子機器がひしめています。

インパネ周辺は、金属だらけ、電磁波だらけ(干渉だらけ)の場所であり、EMC保持の観点から見ても「解析、分析が非常に困難な場所」であるといえます。

※ 緊急警報装置には、クルマが大破しても動作できるよう、バッテリーが内蔵されています。

 

インパネ中央は電子機器の「一等地」

 

-それほど電磁波環境が悪いのであれば、スマートフォンの設置場所そのものを変えれば良いのでは。

親切なご意見ありがとうございます(笑)。

もし電磁波解析やEMC保持の都合「だけ」を優先して考えて良いならば、スマートフォンは、周囲に金属も少なく他の電子装置からも離れている場所、そう例えば後部座席の後ろ、リアウインドウのあたりにでも置けると良いですね!

でも、もちろん、そんな取り外しに不便な場所は、お客様から見れば問題外です。ありえません。

やはり車載電子機器にとっての「一等地」は、運転席からも助手席からも自然に手が届くインパネ中央なのです。だからこそ、この場所にはオーディオ、カーナビなどあらゆる電子機器が集まってくるわけです。

緊急警報装置や盗難防止装置は重要なシステムですが、「使用頻度」という観点でいえば、「一生に一度(あるいはそれ以下)」です。一方、『マツダ コネクト』の場合、ほとんど「いつも使い」の装置となるので、これが快適に使えないようでは顧客満足度は大きく低下します。

インパネ中央は、多くの電子機器がひしめき合う「騒々しい」場所、電磁波解析が難しい場所ですが、だからこそ私たち実研グループは、いっそう妥協無き解析を行わなければいけません。

 

 困難3.「電磁波解析の案件増大 → しかし人と時間は限られている」

-困難3.「電磁波を扱う車載機器は増える一方だが、解析側の時間と要員は限られている」とは

ここ数年前で、電磁波を扱う車載機器の数はざっと2倍に増えました。この傾向は今後も続くしょう。クルマはますます情報端末化し、車内ではますます多くの電磁波が飛び交うことになります。

このことは、私たち電磁波解析部門の重要性、仕事量がますます増えることを意味しています。しかし、それに比例して開発人員が増えるとは限りません。また解析の〆切を手加減してもらえることもないでしょう。

そうした前提でも、妥協無き高品質の解析を行うには、業務の「効率化」が必要です。つまり「今までと同等(あるいはそれ以上の)成果を、より少ない手数、所要時間で獲得していく」ための工夫が重要になります。

 

参考情報: 「これでいい vs これがいい」
 

私は技術者としてのあるべき姿を部下に伝えるために、『これでいい』と『これがいい』の違いという形で説明することがあります。『これでいい』というのは、『まあ、これでイイでしょ!』という態度のことです。今後、車載電子機器が増えてきて、電磁波解析が難しくなるにつれ、その面倒さや難しさを厭って、「まあ、このへんでイイでしょ」とつい妥協したくなります。

しかしエンジニアはそれではいけません。「これが最高」「これ以外ありえない」、「まさにこれが良い!」とい結果が得られるまで、最後まで粘り続ける。それが真の技術者です。

 

 

 

FDTD法とモーメント法の一長一短

-これら困難に対処するために、電子実研グループでは、解析ソフトウエアをどう活用しているのでしょうか。

ここもまた根本からご説明いたします。

電磁波解析の手法には大きくFDTD法とモーメント法の2種類があります。大きくはFDTD法は「大きな対象」の分析に、モーメント法は「小さな対象」の分析に向いています。

つまり一般には、大きな対象である 「クルマ全体」はFDTD法で、小さな対象である「車載機器」はモーメント法で解析する、というように使い分けます。

「車載機器」のような小規模・精密モデルにおけるFDTD法とモーメント法の違いは次のとおりです。
 

項目
FDTD法
モーメント法
備考
解析精度
FDTDは、メッシュが段差のついた「ガタガタ」の状態になるので、
小さい部品の斜め形状の素子などでは解析精度が不十分になる。
計算時間
少ない 多い FDTDでは対象サイズと計算時間は比例関係。モーメント法では
要素数の3乗に比例する。

 

解析の「精度」ではモーメント法の方が優れています。携帯電話の周波数を受発信するような、小サイズの、許容誤差が小さい部品の解析には、モーメント法のソフトウエアを使う方が適切です。

一方、モーメント法には、「対象物のサイズが大きくなると、計算時間も桁違いに多くなる」という弱点があります。

 

大きい対象物をモーメント法で解析するのは現実的ではない

-「モーメント法は、対象物のサイズが大きくなると、計算時間も桁違いに多くなる」とは具体的には。

 

FDTD法の場合、解析対象の大きさ(要素数)と解析時間は比例関係にあります。つまり、解析対象(要素数)が10倍大きくなったとしても、解析時間は「たかだか」10倍にしか増えません。

一方、モーメント法での解析時間は、解析対象の要素数の3乗に比例します。ということは、たとえば「クルマ全体」のような大きな物を解析しようとすると、解析時間はきわめて長大になり、何ヶ月経っても終わりません。

このFDTD法とモーメント法の一長一短を理解した上で、電子実研グループでは、従来は、クルマの電磁波解析を行うにあたり、小型の対象物はまずモーメント法で解析し、次に等価のFDTD法モデルを作成してその結果をクルマのFDTD法モデルに近傍界波源としてインポートして解析を行ってきました。

このときイーエスアイのPAM-CEM(FDTD版)と他社のモーメント法解析用ソフトウエア(製品A)とを使い分けていました。具体的には次のとおりです。

  1. 各単体部品は、製品Aを使って、モーメント法で解析する

  2. そこで得たデータをFDTD法で使えるように修正・変換する

  3. 変換したデータをPAM-CEM(FDTD版)に「合わせ込んだ」上で、FDTD法でクルマ全体を解析する。

 

電磁波は互いに干渉し合うので、各部品の単体の解析結果は、それだけでは役に立ちません。必ず、クルマ全体の中にあてはめて、他の機器からの干渉も織り込んだ上で、希望する特性が出せるかどうかを、「クルマ全体」を解析・シミューレションして調べなければいけません。

つまりクルマの電磁波解析は、いくらモーメント法で下ごしらえしようとも、最後は必ずFDTD法で仕上げることになるのです。

しかし従来は、モーメント法による解析(下ごしらえ)は製品A、FDTD法による解析(総仕上げ)はPAM-CEM FDTD版というように、ソフトウエアのメーカーが別々でした。だから2製品の間でデータを仲立ちするための工程2の部分がもう面倒で面倒で。

先ほど述べた「効率性向上」という課題を考えても、これは良くない状態だ、何とか改善しなければとは以前からずっと思っていました。

そんな折り、イーエスアイの営業さんから、「イーエスアイはモーメント法の解析ソフトウエアの会社を買収しました。これからはFDTD法もモーメント法も弊社一社で提供できます」と知らせがあったわけです。

 

PAM-CEM モーメント版への第一印象

 

-その知らせを聞いての第一印象はいかがでしたか。

すみません、最初は「あ、そうですか」と思うだけで無関心でした。

というのも、いくらイーエスアイがモーメント法のソフトウエア会社を買収したといっても、その製品と、PAM-CEM FDTD版とで、ただちにデータがスムーズに連携するわけでもなかったからです。

イーエスアイさんには恐縮ですが、モーメント法の製品Aの方も性能は十分ですし使い慣れていましたし、特に不満はありませんでしたから。

 

PAM-CEM モーメント版を導入した理由

-そういう第一印象だったにも関わらず、結局、PAM-CEMモーメント版を導入いただけた経緯を教えてください。

最初の知らせから1年後にイーエスアイの営業さんから、「PAM-CEM(FDTD版)と、買収したモーメント法のソフトウエアのデータが容易に連携できるようになった」という知らせが入りました。

だったら話は別です。それが本当なら、業務がすごく効率化できます。詳しく話を聞いてみることにしました。

イメージとしては、PAM-CEM モーメント版のデータを、PAM-CEM FDTD版に組み込むのは、「EXCELデータをPowerPointにコピペするのと同じぐらいラク」とのことでした。もしそれが話半分だとしても、少なくともモーメント法の他社製品のデータを四苦八苦してPAM-CEM FDTDに合わせ込んでいるよりは、遙かにラクになります。

そして半年間、実際に試用し、宣伝文句は本当だ、これは使えそうだという結論が出たので、2015年1月よりPAM-CEM モーメント版の本格使用を開始した次第です。

 

製品への評価

-これまで使ってみてのPAM-CEM モーメント版への評価をお聞かせください。

 

最も期待した「データ連携」については期待どおりに動作しています。以前に比べ、電磁波解析の工数と所要時間は大幅に削減されました。

おかげで今は、〆切までの持ち時間を、データ変換のような不毛な作業ではなく、もっとクリエイティブな「試行錯誤」に使えます。エンジニアの本分である「これがいい」を心ゆくまで追い求められます。

また、試用期間中に改めて感じたことですが、イーエスアイは技術サポートが良いですね。仕事柄、多くの外資系ソフトウエアメーカーと関わりがありますが、他の会社と比べ、イーエスアイは技術サポートの質と迅速性が際立っています。

 

 

先輩ユーザーからのアドバイス

-現在、PAM-CEMモーメント版の導入を検討している企業に向け「先輩ユーザーとしてのアドバイス」などあればお聞かせください。

「仕事は増える、でも人はそれに合わせて増えるわけではない」という状況は、たぶんどこの企業も同じだろうと思います。ということは「業務の効率化」が重要な課題になります。

そうであるなら、「モーメント法とFDTD法の組み合わせによる効率化」を実現しているイーエスアイの製品は、注目する価値があると思います。

 

今後の期待

-イーエスアイへの今後の期待をお聞かせください。

電子実研グループでは、今後も「つながるクルマを正しく作る」ことができるよう、高速・高品質の電磁波解析・シミューレションの体制をさらに充実させていく所存です。日本イーエスアイにはそれら取り組みを、優れた製品と手厚いサポートを通じて後方支援していただくことを期待します。今後ともよろしくお願いします。