さて熱応力解析には弾塑性解析の温度依存性という要素と,もう一つ大きな要素に材料の熱膨張収縮特性があります.
イメージできるかと思いますが材料は加熱されると膨張し,冷却されると収縮する,というのが一般的な挙動です.
温度変化の生じるプロセスではこの熱による膨張収縮を熱膨張率αを使用して以下の熱ひずみが算出されます.
εT = αΔT
ΔTは下図のイメージにあるように,室温などひずみ0となる基準温度との温度差で,この温度差に対応する熱膨張率分だけ伸びる=ひずみが生じる,ということになります.このとき図でS1,S2...で表される傾きが熱膨張率αになります.
フックの法則で以下のように表現することで外力と熱応力を関係づけて計算を行います.この時にもヤング率などの温度依存性は考慮され,降伏応力より大きな応力が発生すると弾塑性挙動となることは前回と同様です.
σ = E (ε - εT )
前回までに示しました材料物性値の温度依存性と熱膨張収縮特性を考慮して弾性解析および弾塑性解析を行うことで,一般的な鋳造などの温度変化を伴うプロセスの熱応力解析が行われることになります.
と書くと簡単に済みますが,実際には温度が変化するとその温度による熱膨張収縮量が変化すると同時に降伏応力も変化します.これは高温では降伏応力が低いので少しの膨張収縮で塑性域に入って永久ひずみが発生しますが,温度が下がると弾性域のみの変化で済んでしまう,という現象が場所による温度の違いとともに同時連続的に生じる,ということを意味しています.
そのため実際の現象を想像したり,理論式を手作業で解くようなことは難しく,数値解析という手段を使うことで鋳造プロセスの応力変形の計算が行われ,下図ように鋳物の変位量,変形量を視覚化することでプロセス解明や改善に役立つことになります.
鉄鋼材料メーカーの製鋼鋳造プロセス研究技術者を経て2000年日本イーエスアイ株式会社入社.鋳造,溶接といった熱加工プロセス,材料技術に従事.