EMC対策や車室内へのアンテナ配置(キーレス、Bluetooth、IOT、等)などで検討対象となる車室内電界分布ですが、ターゲットとなる周波数によって振る舞いが大きく変化します。
今回は周波数ごとに外からの電波によって車室内の電界分布の変化をシミュレーションで確認した事例を紹介します。実験での観測が困難な、電波の波長(周波数)によって車室内における電波の振る舞いが異なる様子をイメージしやすいと思います。
シミュレーション
簡易車両モデルに360°全周10°間隔で平面波(外来電波を想定)を照射した解析を実施し、周波数ごとの車室内電界分布の振る舞いをCEM Oneでシミュレーションしました。
このような解析を行う場合、FDTD法でも対応可能ですが、一度の計算で複数の照射角度と周波数を設定出来るため手間が省けるモーメント法及びMLFMMを使用しました。
はじめに20MHzの平面波を照射した場合の車室内電界分布解析結果を示します。下図アニメーションで左図は車両が無い状態での角度ごとの入射電界(Real)を表しており、右図は車両がある状態での左図に対応する照射角度ごとの電界分布(振幅値)を表しています。
次に周波数が100MHz時の結果を示します。20MHzの結果と比較すると、20MHzの場合には照射角度が変化しても車室内電界分布がほとんど変化していないのに対して、100MHzでは電界分布が大きく変化している事がわかります。
最後に周波数が1000MHz時の結果を示します。上の2つの解析(20MHzと100MHz)については、モーメント法を使用していますが、この解析では計算資源(特にメモリ使用量)削減のため、MLFMM(Multi Level Fast Mutipole Method)を使用しています。
MLFMMは収束計算を行うためにモデルの収束性によって計算時間が変化します。CEM OneのMLFMMでは、収束計算の高速化のためにPreconditioner(前処理行列)機能やInterpolation(MRI: Minimal Residual Interpolation)機能※1を使用する事が出来ます。
また、モーメント法、MLFMMともに大規模モデル計算で搭載メモリが不足する場合に有用な"Out of Core"計算機能があります。
※1:Interpolation機能は複数角度の放射源をまとめて計算する今回のようなモデルや、モノスタティックRCS(レーダー反射断面積)計算に有効です。
モーメント法、MLFMM、PO-PTDといった各周波数領域解析手法選択目安は下記のようになります。なお、フィーチャー画像(一番上の図)はMLFMMで計算した例です。
電気機器メーカーにて電磁接触器の設計に従事し、電磁界解析の経験を積む。1999年より現在まで日本イーエスアイ(株)にて電磁波解析を担当し、主に自動車関連メーカーの解析をサポート。