前回は力と変形を最も単純な弾性モデルにてご説明しましたが,これを弾塑性解析に展開した場合についてご説明します.
金属材料は降伏応力以下の場合,外力を取り除くと元の状態に戻る弾性挙動を示しますが,降伏応力を越えた応力が負荷されると塑性して永久ひずみが発生し,除荷しても変形が残ります.
このときの応力とひずみの関係を図示したものが応力-ひずみ曲線(S-S線図),この挙動を表すモデルが下図に示す弾塑性モデルです.
降伏応力σ0 (Yield stress)を境に弾性域は前回のヤング率E(Young modulus)を用いた応力σとひずみεの関係で表し,塑性域については線形,非線形などいくつかの定式化の方法がありますが,ここでは塑性係数H(Hardening)と塑性ひずみεpl を用いた線形表示の式を示しています.
σ=Eε (σ<σ0 )
σ=σ0 + Hεpl (σ≧σ0 )
このとき塑性係数Hと降伏応力σ0 はやはり温度依存で変化します.下図はAC4Cの降伏応力の温度依存性を示しており,高温になると降伏応力が小さくなっています.これは高温ほど材料が柔らかくなり,元に戻らない変形,すなわち降伏現象が高温でより簡単に生じることでイメージできるのではないでしょうか.
このように室温の構造解析で行われている弾塑性解析にヤング率や降伏応力の温度依存性を考慮することで,鋳造など高温プロセスの熱応力解析=熱弾塑性解析が行われており,温度依存性を考慮することで温度が変化するプロセスで生じる複雑な現象を計算による求めることができる,ということになります.
鉄鋼材料メーカーの製鋼鋳造プロセス研究技術者を経て2000年日本イーエスアイ株式会社入社.鋳造,溶接といった熱加工プロセス,材料技術に従事.