電気・電子機器アンテナの筐体や自動車のミリ波レーダーを覆っている樹脂バンパーカバーなど電波放射源近傍にある樹脂筐体の塗装が放射に与える影響を評価する場合に塗膜を簡易的にモデル化する機能としてCEM One FDTDソルバーの「樹脂塗膜のモデル化機能」を紹介しましたが、この機能が複数層対応へと機能拡張され積層塗膜機能として実際の複雑な塗装構造を考慮したシミュレーションが行えるようになりました。
自動車の樹脂バンパー塗装はプライマ層、ベース層、クリア層を基本とした積層構造で構成され、かつ車種やカラーリング、仕向け地ごとにより多くの積層塗膜塗装が施されています。これらの塗膜はそれぞれ異なる材料が使用されており、各塗膜層の厚さや物性値が異なるためその構成によってミリ波レーダーの電波挙動に対する影響が変化します。
ADAS(先進運転支援システム)の高精度化やAD(自動運転)技術の進展によって、ミリ波レーダーシミュレーションにおいてもより精度の高い検証が求められており、本機能によって積層塗装の影響まで忠実に再現する事によって実物に近い状態でミリ波レーダーシステムの検証を行う事が可能となります。
また、ミリ波レーダー以外でもスマートフォンなど電磁波を使用した電子機器におけるアンテナの筐体内配置検討だけでなく、塗装や加飾フィルムなどの影響も評価する事が出来ます。
本記事では積層塗膜モデル化機能「Multi-layered Thin Sheet」について紹介します。
機能概要
樹脂面に薄い積層塗膜をモデル化する機能
(数十層まで対応)
設定パラメーター
塗膜積層数、各塗膜の厚さ及び物性値(比誘電率、導電率、比透磁率、導磁率)
本機能は「樹脂塗膜のモデル化機能」記事で紹介した一層塗膜機能の利点に加え下記のメリットがあります。
厚さ3mmの樹脂板に垂直偏波(Ez)の平面波を照射し、樹脂板後方の観測点における電界値を観測。塗膜のメッシュを作成したSolidモデルとMulti-layered Thin Sheet機能を適用したモデルで電界値を比較しました。
SolidモデルとMulti-layered Thinsheetモデルの比較
Solidモデルでは各塗膜(Layer)を陽的にモデル化
解析結果比較
観測点における周波数領域の電界値(Ez)比較
Free Space:自由空間(Resin, Layer無し)
No painting:Resinのみ(Layer無し)
1 Layer:Resin + Layer1
2 Layers:Resin + Layer1 + Layer2
3 Layers:Resin + Layer1 + Layer2 + Layer3
上記事例は塗装構造(塗膜の積層数、各塗膜の厚さ及び物性値)によって影響は異なります。
CEM Oneの詳細については下の「お問い合わせ」よりご連絡下さい。
電気機器メーカーにて電磁接触器の設計に従事し、電磁界解析の経験を積む。1999年より現在まで日本イーエスアイ(株)にて電磁波解析を担当し、主に自動車関連メーカーの解析をサポート。