CEM OneのFDTDソルバーでは、アンテナなど電波(電磁波)の放射源近傍にある樹脂筐体の塗膜が放射に与える影響を評価する場合に塗膜を簡易的にモデル化するThin Sheet機能が使用できます。この機能は「車載 準ミリ波レーダー解析」記事で紹介したように自動車のミリ波レーダーを覆っている複雑な形状を持つ樹脂バンパーカバーの塗装などにも適用可能です。
本記事では塗膜モデル化機能「Thin Sheet」について紹介します。
Thin Sheet機能
樹脂面に薄い塗膜をモデル化する機能
(※単体で薄板モデルとしての使用も可)
設定パラメーター
塗膜の厚さ、比誘電率、導電率、比透磁率、導磁率
本機能には以下のようなメリットがあります。
モデル作成工数の低減
マイクロメーター単位の厚さを持つ塗膜領域作成のために間隔の狭いサーフェスで囲まれた領域の作成が不要。特に複雑な曲面で構成された樹脂形状ではモデル作成が困難。
モデルメッシュ設定工数の削減
薄い塗膜のメッシュを作成する必要が無いため、塗膜形状を再現するための細かいメッシュ設定が不要。
計算資源の削減
塗膜部分の細かいメッシュが不要なため、解析モデル全体のメッシュ数増加やタイムステップ間隔の縮小を回避し、解析に要する計算時間・メモリ使用量が節約可能。
厚さ3mmの樹脂板に垂直偏波(Ez)の振幅値1.0 V/mの平面波を照射し、樹脂板後方の観測点における電界値を観測。塗膜のメッシュを作成したSolidモデルとThin Sheet機能を適用したThinsheetモデルで電界値を比較しました。
SolidモデルとThinsheetモデルのメッシュ
Solidモデルでは塗膜寸法(厚さ60μm)・物性値を考慮して細かいメッシュを作成。
解析結果
カットプレーン上の電界分布比較(77GHz)
観測点における周波数領域の電界値(Ez)比較
赤:自由空間(樹脂板・塗膜無し)、緑:樹脂板のみ(塗膜無し)
青:樹脂板・塗膜有り(Solidモデル)、黄:樹脂板・塗膜有り(Thinsheetモデル)
「樹脂板のみ」の場合の電界値は樹脂板の厚さが樹脂板内波長と同じ1λεである約65GHzで1V/mとなっており、照射した平面波と同レベルの値(無損失状態)で、樹脂板内波長の半波長の整数倍(ここでは2倍)で減衰が小さくなっている事から、物質境界面における多重反射によるエタロン効果が確認出来るため結果は妥当だと考えられます。 また、透過率の周波数特性は塗膜によって変化する事が確認出来ます。
解析結果を比較するとThin SheetモデルとSolidモデルは良好に一致しています。また計算仕様からThin Sheetモデルでは計算負荷が大幅に低減されており本機能が塗膜のモデル化に有効であることが確認出来ると思います。
電気機器メーカーにて電磁接触器の設計に従事し、電磁界解析の経験を積む。1999年より現在まで日本イーエスアイ(株)にて電磁波解析を担当し、主に自動車関連メーカーの解析をサポート。